むせた際の刺激で挿管チューブが浅くなり、食道挿管となってしまった|看護師インシデントアンケート

看護師インシデント

年齢・性別

35歳・女性

現在の居住都道府県

埼玉県

看護師として働いた(働いている)年数

13年(インシデント発生時は看護師5年目)

インシデント発生時、どなたかに相談しましたか?

当直医・チームリーダー

インシデント発生時の状況

看護師インシデント

発生した場所・時間帯

集中治療室・午前5時頃

患者の状況

患者は脳神経外科術後の女児で、気管低形成があり、術後は呼吸管理のため口腔挿管・人工呼吸器の使用をしていました。呼吸機能維持と意識レベル確認のため鎮静は浅く、RASS -4〜+2とムラがありました。これまでにも何度か手術を受けていましたが、気管低形成と鎮静が浅いことにより二度ほど挿管チューブが抜けるインシデントが起こっていました。そのため保護者の許可を得て両上肢・体幹の行動制限を行い、ベッドサイドで必ず看護師1名が常時交代で観察をすることになっていました。また挿管チューブ自体の重みでチューブが引き抜けないよう、砂嚢や紐を使って支えられるように固定していました。

担当看護師の状況

担当患者は2名で、女児の隣のベッドに入床中の、同じく脳神経外科術後の成人女性を担当していました。この女児を担当するのは初めてでしたが、過去二度のインシデントに関しては発生要因や対応策を把握し実施していました。

発生時の状況

午前5時ごろに担当看護師が休憩から戻ってきて、女児の全身観察・薬剤交換のために訪床するとRASS−1〜−2でした。身体を動かしたりする様子はなく物音で一度目を覚ましたもののその後また閉眼したため、そのまま薬剤の交換などを行っていました。すると突然女児がむせ込んで声漏れが起こり、SPO2が急激に低下しました。むせ込んだ際の刺激で挿管チューブが浅くなり、食道挿管となっていました。

インシデントの主な原因

患者側の要因

・幼児かつ気管低形成があったことにより、挿管チューブが抜けやすい状況でした。
・脳神経外科術後かつ小児であり、鎮静を深くかけることが困難な状況であったため、バッキングやファイティングが起きやすい状況でした。
・幼児で皮膚が脆弱であったため、成人のような粘着力の強いテープでの固定ができませんでした(過去に皮膚トラブルもありました)。また挿管チューブの誤抜去防止のため、テープの交換は医師とともに日中1回だけ行うというルールで、前日の日中にテープ交換は行われていましたが、汗や唾液などで固定が緩くなっている可能性がありました。

看護師側の要因

・患者を覚醒させるとバッキングやファイティングにより食道挿管や誤抜去を起こすリスクが高くなるため、吸引を行う回数を必要最低限にしていました。事故発生時は唾液や痰が貯留している様子がなかったため、吸引はしていませんでした。
・休憩から戻ってきてラウンドする際に挿管チューブを支える砂嚢・紐の位置を確認していなかったため、女児の身体に対して挿管チューブの固定の向きがあっていない可能性がありました。

インシデントへの対処方法

すぐにドクターコールしました。医師の到着を待つ間にバックバルブマスクにて挿管チューブの上から用手換気を実施し、すぐにSPO2上昇が見られました。医師到着後には食道挿管となったチューブを抜去し、再挿管を実施しました。テープ・砂嚢・紐を使用して医師とともに再度挿管チューブを固定しました。鎮静に関しては、日中担当医にインシデントの内容を報告した上で検討してもらうこととなりました。また同様のインシデントが続いたため、NICUに連絡して乳幼児の挿管チューブの固定方法について助言をもらい、マニュアルを作成。病棟内に周知しました。

インシデント後の経過

再挿管後の胸部レントゲン上では食道挿管になった事による明らかな肺炎や臓器損傷はなく、一時的な低酸素状態による意識レベルの低下等もありませんでした。日中担当医にインシデントの内容を報告し、頭部CTを撮影しました。脳への明らかなダメージはなく、術後出血等も見られなかったことから経過観察となりました。しかし意識レベルの確認ができなくなること・呼吸状態悪化の可能性を考えて、鎮静に使用する薬剤は今回も増量しませんでした。術後3日目には脳浮腫の兆候がないことと自発呼吸がしっかりとあることを確認したため、挿管チューブを抜去し鎮静も終了しました。抜管後の呼吸状態悪化はなく、翌日一般病棟へ転室となりました。

インシデントを無くすためには

・インシデントが起こった原因を様々な角度から分析し、必要であれば医師や他部門のスタッフにも解決策を立案するための協力を求めることが大切であると考えます。インシデントはどうしてもその場にいたスタッフ、特に担当看護師の責任であるという雰囲気になりがちです。しかし実際には今回のインシデントのように、患者の全身状態や治療上の特性からインシデントが起こるリスクが高いケースも多々あるため、看護師の力だけで解決できないことは医師やMEなど他職種に相談するなどしてチーム全体で解決していく必要があります。
・病棟内で同じようなインシデントが繰り返された場合には、その理由をきちんと考える必要があります。初回のインシデント発生時には気付かなかった発生要因や対応策が必ずあるはずです。病棟内のスタッフだけで問題解決できない場合には、医療安全部門の責任者に相談することも有効だと考えます。

インシデントで悩んでいる看護師さんたちへのアドバイス

看護師

看護師をしていると新人であってもベテランであっても、どんなに気をつけていてもインシデントを起こす可能性はあります。それがきっかけでこの仕事を続けていくことが難しいと感じることもあるかもしれません。しかし人間である以上、絶対にインシデントを起こさないということは不可能です。インシデントが起こった後はとても気分が落ち込むものですが、起こった問題と真摯に向き合って得た学びは、きっとあなたのこれからの看護師人生を助けてくれるものになります。ぜひ日頃の業務のなかで危険予知能力を高めていきながら、身の回りでインシデントが起こってしまったときにはチーム全体で解決していく姿勢を忘れないでいただきたいと思います。

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